2017年03月03日

花の色のインク

一年に一度、森の外の街に一年間はたらいた分の税金を払いにいく。
そんな時期がことしも来た。

税金の申告は「空色申告」と「薔薇色申告」の二種類がある。
「空色申告」は、おさめるべき税金をおさめちゃうと、生きるのにギリギリのお金は残るけど、それ以上の儲けなんて空っぽになる。
「薔薇色申告」は、薔薇色控除があるから、おさめる税金をおさめても、人生が薔薇色になるだけのお金がちゃんと残るようになってる。

薔薇色申告はだれでもできるわけじゃなくて、どうしたら薔薇色控除が受けれるのかわたしにはぜんぜんわからない。
とにかくわたしの家には、空色申告用の書類が送られてくるので、いつか薔薇色申告用のものが送られてくるのかな、って期待しながら、儲け空っぽ申告をする。

申告書を書くのはわたしのあたまにはむずかしすぎて、森のカフェに行って、そういうのが得意な人から教わりながら書いた。

社会って、わたしみたいにあたまがわるい人がつくった不完全なものだとおもう。
わたしは、そうおもったから、そう話した。

一生懸命働いて、やっと毎日なんとか暮らせる。
でも、カラダを壊したら、すぐにちゃんとは暮らせなくなる。
ちゃんと暮らせなくなるから、病気を治すお金もない。
だから、病気が治らない。
まったく働けなくなると、社会のお荷物だと言われる。

ずっと健康をたもって、がんばってマジメに働きつづけても、だれでもいつかは老いる。
老いるとカラダがまともに動かなくなって、働けなくなる。
そうすると、社会のお荷物になったと言われる。

どんなふうにがんばって生きても、働いてるあいだだけ「なんとか暮らせて」、少しでも働けなくなると、そういう生活がなりたたなくなる。
老いに逆らうことはできないから、長生きすればするほど、社会のやっかいものになる。

病気や老化を自己責任で防ぐことなんてムリで、だれだって病気をしたり老いるのに、そうなったときにはちゃんと暮らせなくなるシステムが、なぜか構築されてる。
だれが、こんな不完全なシステムをつくったのかわからないけど、わたしみたいにあたまのわるい人にちがいない、と、わたしはおもった。

そうわたしが話したら、それを聞いた森の友だちが、「ちがうね。その反対」って言った。
とてもあたまがいい人が、こんなシステムをつくったんだよ、って。

「働かないと食べれない」ギリギリの崖っぷちで飼われてるたくさんの人たちがいて、それを飼う人たちがほんの少しいて、その飼い主たちが働かないと生きれないシステムを構築して、どんどんギリギリ崖人たちをマジメに働かせる。
働けなくなったギリギリ崖人は、崖の下に落してしまう。
崖の下に落ちたくないギリギリ崖人たちは、必死で働きつづける。
それを飼う人たちは、安定した搾取で薔薇色に生きれる。
あたまのいい人が、こんな搾取のシステムをつくったんだよ、って。

努力すれば、薔薇色人になれる可能性だってある。
あたまのいい人は、その「可能性」をつくっておく。
そうすると、がんばって生きればいつかはじぶんも薔薇色の人生を送れるかもしれない、っておもうギリギリ崖人は、人生に夢をもてる。
その夢という餌に釣られて、ギリギリ崖人たちはウツにもならずにマジメに働いて能動的に搾取されつづける。

ギリギリ崖人から薔薇色人に昇格した人は、とてもいい中間搾取人になれるんだって。
じぶんはがんばって昇格できたのだから、昇格できないやつは努力が足りないのだと厳しく鞭をふるえるからなんだって。
そうやって有能な中間搾取人がどんどん搾取して、その上にいる上流薔薇色人は益々薔薇色人生安泰。

「送られてくる空色申告書をみてごらん」
その森の友だちは言った。

ある年、空色のインクがほんの少し、花の色がついてるようにみえることがあるんだって。
薔薇色申告に切り替わるまえに、インクに花の色を混ぜたものが送られるようになって、その花の色は年々少しずつ薔薇色に近づいていくんだって。
だから、空色のインクが花色がかっていることに気づくと、いよいよ薔薇色申告になるのかな、って期待する空色申告者は、税金をごまかさず、益々一生懸命働くんだって。

「ただしね。花の色のインクは都市伝説だとも言うね。ほんとうはそんなインクなんてないのかもしれない。騙されやすい者ほど、妄想の世界でしあわせに生きるんだ」

わたしはことし、送られてきたじぶんの空色申告書をジーッと見た。
紙の角度をかえたり、さかさまにしたり、薄目で見たりしたけど、ことしの申告書のインクは紛れもなくきれいな空色だった。

だいじょうぶ。わたしはまだ騙されてない。
わたしはまだちゃんと、まとも。

「よかった(^_^)」
って、わたしは言った。

そんなわたしを見て、その森の友だちは言った。

「キミって、騙されやすいね」



posted by みかん at 18:31| ニューヨーク ☀| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月27日

好きな作家の新刊を読む夜

Seiが書いた新作が発売された。
森の本屋さんに行ってみると、早速新刊のタワーができてた。

でも、それはタイトルがわりと似てるべつの作家の新刊だった。
どこかの班長さんが殺された事件を題材にしたストーリー、らしい。
発売日がSeiより一日早かったため、タワーを建てるのにいちばんいい場所は先にとられてしまったみたい。

完璧な発売日などといったものは存在しない。完璧な書店が存在しないようにね。


って、かつてSeiはインタビューでこたえていたけれど。

わたしはどこのだれかもわからない班長さんの生死にはぜんぜん興味がなかったから、とうぜん、Seiの新刊を買った。

夜、森の中を吹き抜けるつよい風が運んでくる塵を家の中にいれないように、窓をぴっちり閉めて、ホットカクテルを寝室に持ち込んで、ベッドの中で読みだした。
この、月のある晩にだけ吹く夜中の強風は、「月の埃」と呼ばれるキラキラしたこまかい塵を森の中に撒き散らす。
とてもきれいな塵なのだけど、朝になると太陽のギラギラしたつよい光が、月灯りの残滓を吸い取ってしまって、次の夜はいつもどおりの闇が来る。
でも、家の中にはいりこむと、夜になっても家のあちこちがキラキラして、電気を消しても部屋の中が暗くならない。
掃除機で吸ってしまえばなくなってしまうし、幻想的な光の塵をたのしんでいる人もいるけれど、わたしは、じぶんがきちんと掃除をしてない証拠をつきつけられてるような気がして、夜に落ち着かなくなってしまう。
だから、月の灯りは家の外でたのしむのがいちばんだと学んで、つよい風が吹く夜は窓を閉め切るようになった。

Seiの新作『ドア殺し』は不思議な物語だった。

主人公は好きだった彼女に突然去られて、住んでいた街を出て、知らない街の家を借りる男。
わたしがある日突然家族がいなくなってしまったように、Seiもおなじ経験をしたのだとおもう。
親近感が増す。

彼の新作はまだぜんぶ読み終えていないんだけど。

主人公の男は、新しい家で最初の晩をまだ片付かない寝室で迎えた。
「彼女」を失って、あしたからどんな新しい人生がはじまるのか、途方もない喪失感と不安をかかえながら。

だけど、夜中にトイレに行きたくなって、寝室から出ようとドアを開ける。
すると、廊下があるはずなのに、ドアを開けたらそこにはがらんとした部屋に便器だけがあった。
訝りながらも、とりあえず用を足した主人公は、いま開けたドアがいつのまにただの壁になっていて、反対側にドアがあるのに気づいた。
そのドアを開けると、こんどはがらんとした部屋に冷蔵庫があった。
冷蔵庫のドアを開けるとつめたいビールがはいっていた。
ちょうど喉が渇いていたから、それをごくごく飲むと、もうひとつ飲みたくなって、また冷蔵庫のドアを開ける。

すると、こんどは冷蔵庫の中はがらんとした部屋になっていて、真ん中にじぶんの手帳が転がっていた。
その手帳は、ことしのために買って、彼女といろいろたのしい予定を書きこんだものだった。
彼女に去られてから、その手帳は捨ててきたはず。
主人公が訝って手帳を開くと、じぶんのこれからの予定が書きこまれていた。
それは、「彼女」の存在なんてはじめからなかったように、じぶんひとりきりの予定ばかりだった。

主人公は、予定で埋められている手帳に、なんとなく安堵する。
予定がはいっている未来があることに、安心するのだ。
その手帳をパジャマの胸ポケットにしまうと、またドアに気づいた。
そのドアを開けると、がらんとした部屋にベッドがあった。

じぶんがさっきまで寝ていた寝室とはぜんぜんちがうなにもない部屋で、ベッドだけが置かれてる。
だけど、主人公は予定で埋まっているじぶんの未来に安心したせいで襲ってきた睡魔に負けて、深くはかんがえずにそのベッドに飛び込んだ。
そして、爆睡した。

起きると、部屋にはベッド以外には、ドアがひとつしかないから、それを開けた。
おなかが空いたから、朝食を食べたかった。
しかし、ドアを開けると、がらんとした部屋に新聞が置かれてるだけだった。

そうだ。いつも、朝食のまえに配達された新聞を取りこんで、一面の見出しをざっと確認しながらキッチンに行くのが習慣だった。
いままでどおりの日常の順番を取り戻したようなきぶんになる。
またあたらしいドアがそこにあって、これを開けるとキッチンに出るはず。
主人公はそう予想しながらドアを開けると、がらんとした部屋に、すでにできあがってる朝食のプレートが置かれたテーブルがあった。

主人公が食べたいものばかりがプレートに乗っていた。
コレステロールを気にしてタマゴをひかえるようになっていたけど、このプレートには好物のふわふわスクランブルエッグが山盛りになってる。
そして、塩分たっぷりの厚切りベーコンが5枚も添えてあって、バターと蜂蜜をたっぷり含ませた焼きたてのトーストも厚いのが3枚も。

カラダにわるい、とおもいながら、主人公は欲望に負けて、それをぺろっとたいらげてしまう。
なにか飲みたくなって、めのまえにあるドアを開けた。
いつもなら健康のために、朝は野菜ジュースと決めていた。
いちどもおいしいとおもったことがなかったけれど、カラダにいいと言われている緑黄色野菜をいろいろ放り込んでジュースをつくり、味覚を感知しないように脳を麻痺させて、一気飲みする。
けれど、その朝はドアを開けると、つめたいビールがあった。

そう、これこれ。
朝からビールを飲みたかった。
そういう自堕落さをじぶんの日常にゆるして、もっとたのしく生きたかった。
いなくなった彼女は、朝、起きるとタバコを吸った。
それをなんどとなく、主人公は諌めた。

オンナはそんなもの吸うもんじゃない、とは言わない。
それを言うのは、ほら、女性は怒るから。
なぜ、オトコはよくてオンナはいけないのか、って。

それぐらいは主人公はわかっていたから、健康のためにその習慣はよくないんじゃないかな、って、いつも彼女に言っていた。
彼女を心配したから、だ。
朝から、一緒に寝ていた寝室に臭い煙が充満するのがガマンできなかったから、ではない。

朝はとくに、一日でいちばん健康的に過ごすものだ、と主人公はおもっていた。
だけど、めのまえに出現したビールをためらわず手にすると、朝ビールをこころゆくまでたのしんだ。
それは、とてもおいしかった。
カラダにどうわるくたって・そんなのみんな・くそくらえさ。

ドアを開けると、主人公の欲望を満たすものがある部屋にでる。
そのことに、主人公は気づく。
このドアは、じぶんの欲望にリンクしてる、と。

不思議な家を借りてしまったものだとおもう。

それで、次々、主人公はドアを開けていく。
ただし、二度とおなじ場所には戻れない。

あるとき、ドアを開けると、去っていったはずの彼女がいた。
「あ」とおもった瞬間、彼女はその部屋からちがうドアを開けて逃げてしまった。
そのドアをすぐに開ける。
けれど、そのがらんとした次の部屋には、彼女はいなくて、タイプライターが置かれていた。

そうだ。
ずっと昔。
ものすごい孤独をかんじて、それを持て余していたころ。
もらったばかりのバイトのお給料で、中古のタイプライターを買った。
その夜から、ひとり暮らしの部屋で主人公は、まいばん手紙を書いた。
手紙を送るような家族も友だちも恋人もいない。
だけど、無性に手紙を書きたくなって、まいばん書いた。
その手紙は、いつしか「それを受け取る相手」が主人公のあたまの中でできあがっていく。

その相手は女の子。
ひとり暮らしをしていて、ヘンなオトコなんてくっついてなくて、孤独で、でもこころがきれいで、主人公をリスペクトしてくれるだけの知性があって、手紙をマメに書いてくれる、そんな女の子。
じぶんの理想どおりのあたまの中の「彼女」が、いつからタバコなんて吸うようになったんだっけ?
主人公はおもいだせない。
ふたりいっしょに夜を過ごして、おなじ部屋で朝をむかえるような関係になってから(もちろん、あたまの中で)、「彼女」はなにかちょっと、じぶんがおもい描いていた女の子とはちがっていった。

その女の子にはなまえもあった。

Rakka。

主人公は、じぶんのあたまの中の文通相手の彼女、と恋をしてた。
それをおもいだす。
その彼女に、とつぜん、去られてしまったのだ。
じぶんのあたまの中から、彼女がいなくなった。

彼女は、なぜ、消えたのか。

主人公は、ほんとうは想像上の彼女なんて、要らなかったのかもしれない、ってかんがえた。
それとも、想像上でしかない彼女の存在に、かなしくなっていたのかもしれない、って。

僕は・彼女と・どうなりたかったのか。

主人公は、次のドアを開ける。
じぶんのほんとの欲望が、ドアを開けると出現するはず。

それに気づいて、主人公はどんどんドアを開けていく。
いろんなじぶんの欲望と、そのたびに直面する。
じぶんでもびっくりするような欲望、呆れるような欲望、否定したくなるような欲望。
いろんな欲望を、主人公は大量にかかえていた。

けれど、ほんとうの欲望だけが、いつまでもあらわれない。
タイプライターでじぶんの孤独を癒してきた主人公が、ほんとに欲しいものはなんだったのか。

ドアを開けることに主人公は疲れていく。
じぶんの欲望に吐き気がしてくる。
ドアに殺されていく。

そこで第一部がおわり。
第二部も同日発売だったけど、わたしはお金が足りなくて、まだ買えない。

つづきを知りたいなら、わたしはまた働かなくちゃ。

Seiも以前、生活費を稼ぐコツの話をしていた。

なぜ、新刊をいつも上下巻に分けて出すかっていうとね。
印税が倍になるから、だ。
みんな、そうやって、賢く稼ぐのさ。
だけど、さすがに僕は上下巻の2冊だけに留めておく。
3冊に分けて3倍稼ごうとするほど、僕は生活には困っていないふりをするのさ。
作家はね。
お金のために書いてるわけじゃない、っていうイメージを保つことも、創作ストーリーのだいじなぶぶんなんだよ。





posted by みかん at 18:16| ニューヨーク ☀| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月14日

人生相談

【フォレスト新聞 - 生活面 - 人生相談】

わたしの人生はかなしいことばかりです。
なぜ、わたしにはかなしいことばかり起こるのでしょうか。

相談者:P




【人生相談 - 回答】

人生の作者はじぶん自身です。
あなたのかなしみは、すべてあなたの創作です。
悲劇は感動を生みます。
あなたは悲劇に感動するのが好きなのではないでしょうか。

回答者:MM(作家)





posted by みかん at 03:54| ニューヨーク ☁| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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